村上春樹(週刊キャプロア出版第7号掲載)

あなたがおっぱいについてどんなイメージを持っているかなど、私は何も興味を持っていないし、何かを言う権利もない。大きい方が良いと思う人が多いのは確かだし、色や形、また障り心地に関心がある人もいるかもしれない。ただ、「おっぱい」という単語に反応してニヤける男性を見ると、やれやれと、私はいつも思ってしまう。「あなたはおっぱいについて本当に知ってるの?」と私はつい問いかけてしまいたくなる。

おっぱいについて語り尽くすことは私には出来ないし、あるいは世界中の誰もそんなことは出来ないのかもしれない。私がおっぱいについて何かを語るとすれば、おっぱいに対するイメージが全く変わった3年前の出来事ー出産ー重ねられた二つのスプーンのようにピタリと私に張り付いてくる存在が誕生したーという出来事以降だ。

出産するまで私はおっぱいについてあまりにも無知だった。私はおっぱいと共に生きてきたはずなのに。いや、それは私の思い込みに過ぎなかったのかもしれない。ただ一つ言えるのは、生まれたときからおっぱいは私の体に付いていた。

「毎週、おっぱいについて書けるのだろうか?」コーナーを持つことを決めたとき大きな不安があった。なぜなら私は飽きっぽくて忘れっぽい。数日後には忘れてしまうかもしれない。しかし、決めたからには続けなければならない。土曜日の朝にドリップコーヒーを淹れるときみたいに、間違えないよう丁寧に続けていきたい。

今日もまた私はおっぱいを娘に与えている。そして、娘たちが眠ってしまった後も、一人おっぱいについての文章を書いている。やれやれ、またおっぱいか。

この文章は週刊キャプロア出版の第7号「村上春樹」に掲載されています。