好きだけど嫌い。可愛いけれど憎い。

 お腹にいるときから知ってるよ。お腹の中で一緒に遊んでたんだもん。産まれてくるのも見ていたし、おへそ切られてたのも覚えてる。ずっと会いたかった。早く一緒に遊びたい。私の真似をいつもしてわたしのことが大好きなのかな。

お姉ちゃんだから髪の毛結んであげる。出来なくてもしてあげたい。抱っこもしてあげられる。手も繋いで歩かしてあげられるのに、なんでいつも泣くの?私はなんにもしてないのに。ただ色々してあげたいだけなのに。

みんなに可愛いねって言われて嬉しい。自慢の妹。一番可愛い。保育園でも時々見てるよ。お誕生日会で前に出たときはわたしの方が緊張したよ。

 おもちゃ沢山あるのに、なんでいつも私の邪魔をしてくるの?せっかく作ったブロック壊さないでよ。やめて!あっちいって!私が悪いんじゃないよ。妹が私の邪魔をしたんだよ。何回言っても聞いてくれないから、ちょっと押しただけだよ。

 何しても妹は怒られない。あんなにご飯こぼしてるのに。いつもご飯食べさせてもらってる。そして、なにより、いつもいつもおっぱい飲んでる。私のおっぱいだったのに。私がママのおっぱい作ったんだよ。私だって飲みたいのに。交代してよ。こっちもあっちも私のものだよ。ダメ、おっぱいはあげない。

妹なんていらない。好きじゃない。可愛い。お世話してあげたい。一緒にお風呂入りたい。大好き。色んな気持ちが要り混ざって複雑なお年頃なんだよ。

長女の気持ちを考えてみた。

漏れ

 おっぱいは赤ちゃんが吸ったときだけ出るわけではない。赤ちゃんが吸わなくても、おっぱいが漏れて服がびしょびしょになったりもする。夜中目が覚めると、服がびしょびしょで寒いなんとこともよくあった。

 服がびしょびしょになるのを防ぐために、ブラジャーのパットは欠かせない。子どもが居ないときに付けていたブラジャーは大きく見せるためにパットが入っていたんだと思う。でも今使っている色気の欠片もないブラジャーは漏れたおっぱいを吸収するためにパットが入っている。

 ブラジャーの消耗も早くなった。汚い話だが、すぐにカビたりもする。おっぱいが付いたまま洗い忘れたりなんてするとブラジャーはカビてしまう。それくらい、授乳中のおっぱいは勝手に漏れている。
 
 最近は出る量も減ってきたので、漏れることはほとんどない。でもそれでもパットは欠かせないし、以前のヒラヒラが付いたワイヤー入りのブラジャーにはもう戻れない。

苛立ち

 どうしていつも私だけ、、、。パパがいるじゃん。どうしてあなたはいつも寝ているの?

 旦那がイクメンなのは認める。私よりこども好きだ。娘たちもパパのことは大好きだ。なのにどうして二人して私にしがみついて泣きわめくの?パパが側にいるじゃん!一人パパのとこ行ってよ。

 理由は簡単だ。私におっぱいがついているから。彼女たちが求めているのは私ではなくおっぱいに過ぎない。夜中だって何度も起こされるのはおっぱいが欲しいから。パパのおっぱい飲んどけばいいじゃん。

 あなたは超子ども好きで、子どもが欲しかったんだよね。良かったね、簡単に二人も手に入って。いいよね、毎日朝まで眠れて。苦しい思いなんて全くせずに、可愛い我が子を手に入れられて。それなのに周りからはイクメンともてはやされて、誉められて。

 私は妊娠して毎日のように吐き続けて、鬱になりそうになって、お産も死ぬ思いして、産後も眠れなくて、未だに眠れなくて、二人がかりで日々泣きつかれてるんだよ。でも、誰からも誉められないし、旦那さんが協力的で羨ましいって言われる。私が怠けているように見られてるんだと思う。確かにあなたはイクメンだよ。家事も育児もしてくれて確かに助かってる。でも、あなたは朝まで毎日寝てるよね。

カメラ

 旦那の家系は彼も含めてカメラ好きが多い。特にお義父さんはいつも一眼レフを持って娘たちを沢山撮ってくれる。旦那も負けずにとりまくるので、娘たちのイベントはいつも写真撮影会となっている。

 カメラに興味がない私は、そこまで撮らなくても、、、と思うことも多々あるが、とはいっても可愛い娘たちの記録を残してくれるのは有り難いなと思っている。お義父さんは定期的にフォトアルバムにまでしてくれる。旦那はネット上で沢山私に共有してくれる。ほとんど写真を撮らない私にはどちらも確かに有り難い。

ただ、一つだけ問題がある。それは時々私のおっぱいが写っていることだ。もちろん故意に撮ったわけではないというのはわかっている。お義父さんが送ってくれるフォトアルバムにも写っていることが何度かあった。たぶんお義父さんは気付いてないんだと思う。

旦那が両親に送っている写真データにも写っていないか不安だ。一応チェックはしてくれているらしいが、枚数がとても多いので見逃しがあってもおかしくない。 

私の体のおっぱいは日常の風景のように自然に写真に写りこむ。それくらいいつも出ている。

ご近所さん

 長女が生後三週間位のとき。今の家に住んで一年、近くに友達はもちろん喋れる人すら一人も居なかった。地元の友達が家に遊びに来てくれて、久々に沢山話した。

 久々に外に出てランチをしたり、少し歩いてお迎えに行ったりした。無理しているつもりは全くなかったが、今思うと炎天下、産後三週間の体にはきつかったのかもしれない。

 おっぱいを飲ませると寝るの繰り返しだったはずの娘が、なぜかおっぱい飲んだ後も泣きわめく。こんなことは初めてだった。病院に連れていこうかと迷うくらいだった。おろおろする時間がしばらく続いたが、最終的には眠ってくれた。

 友達と久々に会えて楽しかったはずの日だが、友達が帰った後、私は肉体的にも精神的にも疲れはてていた。

 そんな中、ご近所さんがキュウリをお裾分けに持ってきてくれた。今でこそ普段から遊んだり行き来している関係性だが、その頃は一度挨拶したくらいで、顔すらよく把握してなかった。

 大丈夫ですか?と向こうから話を聞いてくれた。何しても泣くんですよ、と今日の不安を話すと、四人の母親である彼女は、大丈夫、赤ちゃんは泣く、どうしても泣く、と言い切った。そして色々話してくれた後に、「いろんな人がいろんなことを言うけれど、自分の考えが正しいと思う」とアドバイスしてくれた。最高のアドバイスだと今でも思う。おっぱい足りてるの?寒いんじゃない?暑いんじゃない?回りはいろいろと心配してくる。でも私が母親なんだから、私が感じてることがきっと一番正しい。

圧力

 えっ?まだおっぱい飲んでるの?
一歳半を過ぎた頃位から回りからそう言われることが増えてきた。うちの子は大柄なので実際の年よりも上に見られているからかもしれないが。

 おっぱいやめた方がいいですよ。と保育園の先生から説得された。おっぱいがないと眠れなくて、毎日お昼寝の前に泣いているそうだ。園で寂しい思いをしているのなら家出くらい甘えさせたい。こども居ない先生にそんな言われても説得力ないし。というかそんなことまで干渉しないでほしいと初めは思った。

 二人がかりでやめた方が絶対良いと言ってきた。確かに毎日泣いているのは可愛そうだ。園自体は嫌がらずに行ってくれている。おっぱいやめたら泣かずに楽しく通えるのなら、、、

 ついにやめることを決意した。結局失敗に終わったが、それで良かったと思っている。回りの圧力に負けちゃいけない。母親なのは私なんだから。おっぱいは好きなだけ飲ます。誰になんといわれても。

次女は園に通い出してからもおっぱいは飲み続けているが、泣くことはほとんどないらしい。お昼寝も家よりスムーズにしているらしい。担当の先生は、ママがきつくないならあげて良いと思いますよ、と言ってくれた。今回はすごくいい先生に恵まれて良かった。

カルシウム

 おっぱいにはカルシウムが含まれている。つまり、おっぱいを出す度に、私の体はカルシウムを失っている。きっとその他にも様々な栄養が体から出ていっているのだろう。

 だから爪がもろくなったのではないだろうか。爪自体はカルシウムで出来ているわけではないことは後から調べて知った。しかし、カルシウムを含め、多くの栄養が授乳によって奪われていることと、爪がもろくなったことは関係はありそうだ。

 私の爪は大抵いつも長かった。割りと綺麗に伸ばせていたと思う。指と爪は私の体の中では偏差値が高いパーツだった。ネイルアートも好きだった。何種類かのネイルを塗ったり、シール貼ったりを楽しんでいた。

 出産してからはいつも爪は短い。その理由の一つは、赤ちゃんを傷つけないようにするためだが、そうでなくてももうあんなには伸ばせない。少し伸びると割れるようになってしまった。以前はあんなに伸ばしても大丈夫だったのに。

 おっぱいは私からカルシウムもその他栄養もそしておしゃれ心も奪っていった。

貯蔵

 おっぱいの出方には二種類ある。溜まったおっぱいを出す方法と、作りながら出す方法。といっても、もちろん、選べるわけではない。

 はじめの頃はおっぱいは溜まってパンパンになる。胸がはって痛くなる。赤ちゃんが飲んでくれると溜まっていたおっぱいはなくなり体は楽になる。 

 数ヵ月経つと、だんだんおっぱいが張らなくなってくる。あんまり出なくなったのではないかと不安になるが、これは問題ないらしい。必要に応じてその都度おっぱいが作られるので、新鮮で美味しいおっぱいになったらしい。おっぱいが張らないので体も楽だ。

 現在私のおっぱいは全然張らなくなった。長時間飲ませなくても張って痛くなることはあまりない。離乳食も進み、ほとんどもう出てないのかなと思っていた。

 先日おっぱいを飲んでいた娘が、他に興味が移ったらしく、急に乳首を離した。すると、おっぱいがピューっと溢れてきた。あ、まだまだこんなに出てるんだ。なんだか一安心。

アンパンマン

 おっぱいを止めさせる方法の一つとして、おっぱいにお絵描きしたいう体験談を数人から聞いた。おっぱいをお絵描きで顔にするというのはよく聞くが、セミの脱け殻を付けて怖がらせたという人もいた。

 顔を書いて自ら飲まなくなるなら良いなと思った。でも、怖がらせて飲まなくさせるのは可愛そうだし嫌だなと思った。あんなに大好きなおっぱいを怖い存在にしてしまうのは可愛そう。

 大好きなアンパンマンの顔を書くことにした。事前に止める日を伝えて、と言っても2歳の娘に日にちはわからない。カレンダーにおっぱいマークを沢山書いて、一日が終わるごとに消していった。今日はおっぱいあったね、明日もあるね、その次も、、、そして、この日からおっぱいはアンパンマンになるよ!と言って、カレンダーにアンパンマンマークも描いた。

 大好きなおっぱいが大好きなアンパンマンになる。今日はおっぱいある?と聞くと、カレンダーを見て確認するようになった。

 おっぱいマークが全て消えて、アンパンマンのマークが描かれた日がついにやって来た。青のマジックで乳首を塗りつぶし、アンパンマンの鼻にした。娘はどんな反応をするのだろうか。

敬称

 長女は私のことを「おっぱいさん」と呼んでいた時期があった。いや、正確に言うと、私がおっぱいさんではなく、私のおっぱい=おっぱいさん。おっぱいさん+ママ=私という関係性。「さん」付けを教えたのは私だったかもしれない。こんなに頑張ってるのだから、娘に敬意を示して欲しかったのかもしれない。

 一部のSNSで私は「おっぱいさん」と名乗り出した。娘からそう呼ばれていたのがきっかけだが、実は他にも理由は色々ある。

 まずインパクト。覚えてもらえやすくて親しみがある名前だと思ったから。これは成功だったと思う。多くの人がそのまま「おっぱいさん」と戸惑いながらも呼んでくれる。今までは私が「山口さんの奥さん」だったのに、今では旦那が「おっぱいさんの旦那さん」と呼ばれることもある。これはなんだか超嬉しい。

 次におっぱい目当てで寄ってくるエロ親父を沢山引っかけてフォロワーを増やしたかった。残念ながらこれは失敗。フォローしてくれるのは大抵真面目な男性や子育て中の女性。

 最後に、これが一番の理由だが、おっぱいの情報を伝えたかった。おっぱいの地位を高めたい。女である私でさえ知らなかったおっぱいの本当のすごさを多くの人に知ってほしかった。

 授乳期が終わったらおっぱいさんじゃなくなるけど名前どうしようかな。